興味深い意見を見せてもらってます。 ちょっと気になった部分があったのでメールを送ります。

縄文人が1万年以上前から・・・のくだりですが 1万年以上前といえば世界4大文明発祥以前のものです。 ってことは日本が世界最古の文明!?って事になりますが そういう話は聞きません。

というのも年代測定法に問題があるからです。 現行の年代測定法は基本的に炭素14法が使用されてますが こうした測定法の欠点は過去と現在の炭素14の量が 同じという前提が必ずしも成立するかどうか分からない という所にあります。 大気汚染などの激しい地域ではつい最近の物でも はるか昔のものであるような年代をはじきだします。 また、遺跡などの発掘作業に携わる人のたばこの灰などが わずかでもつけばまた年代は変わってきます。

そうした事から時代の前後関係くらいは かろうじて分かっても、はっきりした年代までは導けない事が多いようです。 また、同様のことは化石などにもいえます。 年代の矛盾についてはこういう解釈もできるという程度に 参考にしてください。


(1)四大文明発祥の地と縄文時代の日本

1万年以上前といえば世界4大文明発祥以前のものです。 ってことは日本が世界最古の文明!?って事になりますが そういう話は聞きません。
「世界4大文明発祥」について大きな誤解をされておられるようです。また、「文明」(civilization)と「文化」(culture)とを混同されておられるようです。「世界4大文明発祥」というのは、メソポタミア、エジプト、インダス、黄河地域で発見された、古代の都市文明(civilization)の遺跡からこのような名前がつけられたのであって、それらが人類最古の遺跡だと言うのではありません。それらの地域でも、食料生産技術の発達による定住と都市文明が生まれる前は、日本の縄文時代の人々のように、ながいあいだ食物採集文化の生活を営んでいたのです。また、日本においても、縄文時代(新石器時代に相当)よりも、さらに古い岩宿時代(旧石器時代に相当)と呼ばれるの時代の遺跡もたくさん発見されており、それは3万年前までさかのぼります。

ご存じのように、日本では古代国家のようなものが見られるようになるのは、古墳時代になってからです。世界の他の地域と比べて、日本の縄文時代のもつ特徴はそれが古いことにあるのではなく、とてつもなく長く続いたことにあります。つまり、日本では食物採集文化の生活がつい最近まで(西暦前3世紀)続いていたのです。弥生時代に大陸や半島から渡来人がやってきたり、欧米から宣教師や黒船がやってこなければ、日本人はいまでものんびり縄文人をやっているかもしれません。

    前1万年  前8千年  前6千年  前4千年  前2千年 前3百 1千年 現代
     ┌──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬─┬┬┬─┬──┐
     │        日本食料採集社会(縄文時代)      │弥│古墳天皇│   
     │                            │生│幕府近代│ 
     ├──────────────┬─────────┬───┴─┴────┤
     │  東アジア食料採集社会  │ 食料生産社会  │ 殷王朝・漢王朝  │   
     │              │         │ 唐王朝・他    │
     ├─────┬────────┴─────┬───┴──────────┤
     │西アジア │    食料生産社会    │ シュメール・アッシリア  │   
     │食料採集 │              │ ペルシャ・ローマ帝国   │ 
     ├─────┴─────┬────────┴──┬───────────┤
     │  ヨーロッパ    │  食料生産社会   │ミケーネ・ギリシャ  │    
     │  食料採集     │           │ローマ・ゲルマン・近代│
     └───────────┴───────────┴───────────┘
       (ドイツ民主共和国科学アカデミー『世界史:封建主義形成まで』より)
なお、土器だけに関して言えば、いまのところ、日本で発見された古い縄文土器(長野県出土の隆起線紋土器)が世界でもっとも古い(1万2千年前)ものであるとされています。

(2)過去と現在の大気中の炭素の量は変化するのではないか

炭素14年代は、現代もっとも有効な年代決定方法の一つになっており、確かにご指摘のようなさまざまな問題を抱えています。しかし

こうした測定法の欠点は過去と現在の炭素14の量が同じという前提が必ずしも成立するかどうか分からないという所にあります。
という評価は、現代の測定方法に関しては間違っています。というのは、炭素14年代は大気中の炭素の量との比較から引き出すものですが、現代の炭素14年代は、大気中の「過去と現在の炭素14の量が同じという前提」に立ってはいないからです。たとえば、いまわたしの手元にある「Patterns in Prehistory: Human's first three million years」(Robert J. Wenke) によると、
Radiocarbon age estimates must be corrected for the fact that the amount of 14C in the atomosphrere has not been constant. (p. 59)
大気中の炭素14の量が一定ではないという事実に沿って、炭素14年代の測定は計算されなければならない。
と明記してあります。実は、過去の大気中の炭素の量の増減の変化量は計算することができるので、その変化にしたがって、現代の炭素14年代の測定は計算されているのです(図1参照)。つまり、現代の炭素14年代は「過去と現在の炭素14の量が同じという前提」に立ってはいないのです。

どのようにして、過去の大気中の炭素14の量の増減の変化量が計算されているのでしょうか。それは、木の年輪から測定されるのです。よく知られているように、年輪は正確に一年ごと輪を一つづつ加えていきますから、外側から数えて何年前の年輪であるかが正確に確定できます。しかも、年毎の気候の変化によって年輪も狭くなったり広くなったりするので、その変化のパターンを集積することによって年代をはかる一つの基準が決定ができます(図2参照)。さらに、都合の良いことに、木は生き物の中でもっとも長生きするものの一つで、何千年も生き続けます。大木の豊富な北欧や北米では、現在7千年前までの年輪をさかのぼることができます。このようにして、木は過去の大気の状態を、年毎に区切って教えてくれる貴重な資料を内に秘めているために、考古学や歴史学にとって、年輪年代学は現代最も大切な学問の一つとなっています。(そのため、日本でも年輪年代学は活発な研究が展開されているようです。興味ある方は、奈良国立文化財研究所などに連絡をされると良いでしょう。年輪年代学の資料はインターネット上でも豊富に紹介されています。「tree ring」とか「dendrochronology」で検索されると良いでしょう。)

この年輪の一つ一つのなかの炭素14の量から、過去の大気中の炭素の量の増減の変化量が逆計算されるわけです。そこから「Currection Curve(矯正曲線)」と呼ばれるグラフがつくられますが、これをもとに、炭素14年代の測定は「矯正」されます。つまり、大気中の炭素の量の変化に沿って炭素14年代が決定されるのです。

(3)不純物が計算を狂わせるのではないか

遺跡などの発掘作業に携わる人のたばこの灰などがわずかでもつけばまた年代は変わってきます。
これはまさに指摘されるとおりですが、実験のデータに不純物が入る危険というようなことは、すべての科学実験に通じることであって、別に、炭素14年代学に限ったことではありません。そのために、他の科学実験と同じように、そのような事実をふまえて、炭素14年代学も誤差値(比較的信頼できる範囲)というものを提供し、特にアブノーマルな数値が出る場合は、その信頼性が低いことが指摘されています。科学実験としては当然のことですが、数多くの炭素14年代学の実験結果はインターネット上にも紹介されていますから、それらを見れば、このことがすぐに分かるでしょう。(興味ある方は、"carbon dating" "carbon chronology" などで検索されると良いでしょう。)

さらに、1970年代に開発された「Accelerator Mass Spectrometry 加速器質量分析」という画期的な技術は、(ア)きわめて少量のサンプルから、(イ)不純物を取り除いて精度の高い結果を出すことを可能としました。 それが、現在、ご指摘のような人為的な失敗が生み出す誤謬を取り除くための有効な技術となっています。

また、現代の年代決定の技術は、炭素14年代学だけではなく、沢山の方法が使用されています。たとえば、フィッション・トラック法、熱ルミネッセンス法、カリウム・アルゴン法、上記にあげた年輪学、多次元スケーリング、その他数多くの方法が使用されているだけでなく、つぎつぎと、新しい方法も開発されています。

全ての科学がそうであるように、炭素14年代学もその実験結果を絶対化するものではありません。しかし、その結果がまったくデタラメなわけでもありません。そして、縄文時代の年代に関して言えば、それは、単に炭素14法によって決定したのではありません。炭素14法が日本に紹介される以前から、日本では縄文土器の偏年が山内清男氏らを中心に進められていました。いろいろな方法が総合されて、現代の縄文時代の年代が決定されているのです。(「作者よりTMさんへ」を参照して下さい。)

「ファンダメンタリスト」と呼ばれる人たちの文献(たとえば、「創造科学」の出版物)では、炭素14年代学のもつ技術的問題を指摘するだけで、それに代わるよりすぐれた技術を提供する努力もせず、また、炭素14年代学の抱え持つ問題を解決するためのなんらの技術開発もしていません。これは、彼らの努力が、真実を知るための努力ではなく、信仰によって(つまり、なんの根拠もなく)真理であると信じている聖書の記述を、もっとながく信じ続けるための努力にすぎないからでしょう。それに比べて、現代の縄文時代の年代については、膨大な資料の山を、その主張の根拠として提示することができます。そして、それら縄文時代の資料は、結果として、聖書の記述(たとえばノアの大洪水)が歴史的に正確な記述ではないことを証明しています。