佐倉哲
私は神を信じてませんが、古事記やギリシャ神話などの神話文学は大好きです。
あなたのページの聖書の歴史的背景の話など、興味深く読ませていただきました。
ところで2つばかり質問させて下さい。
時間があれば私も聖書を読んでみようかと思っていますが、そのときは出来るだけ
原典に近いものを思っています。佐倉さんお薦めの日本語訳はどれでしょうか。
ノアの洪水が神話でなく事実だとすると近親相姦が避けられなかったはずですが、
教会はこれについて何と説明してますか。創造論を主張するウェブページで
「モーセが律法を定めるまで禁止されて無かった」というのが有りましたが、
まさかこれが代表的意見だとも思えないし。
それではこれからも頑張って下さい。
わたしは聖書の専門学者ではありませんから、どの翻訳が「原典に近い」かというご質問には自信を持って答えることはできません。しかし、素人として(一信徒として)の立場から「聖書の原典に近づくこと」にいくらかの努力はしましたので、その立場からわたしの方法を述べてみます。
素人が原典に近づくためにできることは、基本的に三つあると思います。ひとつは、複数の翻訳を比較しながら読んでゆくことです。聖書翻訳はしばしば同じ様な神学的立場(ドグマ)をもつ学者を集めたチームによってなされる場合があるので、複数の翻訳本を持つことは、そのような特定のドグマに影響された翻訳からある程度自由になることができます。
つぎに、利用できるのは、対訳聖書です。たとえば、ミルトス・ヘブライ文化研究所編の『ヘブライ語聖書対訳シリーズ』のようなものです。これはヘブライ語を知らないものにとってもとても役に立つものです。たとえば、このシリーズの「創世記一」の初めの部分(「初めに、神は天と地を創造された」)はつぎのように翻訳されています。(ヘブライ語にならって、右から左に読んでいきます。)
さらに、利用できるのは、聖書ソフトです。日本語の場合はよく分かりませんが、英語用の聖書ソフトはたくさんあって、そのいくつかは、ヘブライ語やギリシャ語の原語辞書のようなものがついています。それを使えば、ある表現の原語をすぐ探索でき、その原語がどの語から派生したか、それは聖書の他のどの部分で使用されているか、などということがすぐわかります。
以上が、わたしの方法ですが、原語を学び、専門的に研究する方法には、とうていおよびません。(もちろん、原語を知らなければ聖書の本当の意味が分からないとしたら、平信徒は「神の言葉」の意味を理解できない、というキリスト教の救済思想にとってはたいへんな事態を意味することになりますが・・・)
原語にとくべつに注意を払わない場合は、わたしは、新共同訳(日本語)とNRSV(英語)を通常利用しています。アポクリファ(聖書外典)が付いているからです。
ノアの箱船の場合もそうですが、この問題はとくに、カイン(アダムとエバから生まれた長男)の妻は誰か、というような問題の中で、しばしば出てくるものです。人類はすべて、アダムとエバの子孫だとすると、カインの妻は(聖書には書かれていない)妹か姉あるいは、その子孫との結婚を想定しなければなりません。近親相姦は必要不可欠となります。アダムやノアの物語を神話としてではなく文字どおりに史実であったと解釈するクリスチャンは、近親相姦が許されていたと理解する他に方法がありません。しかし、わたしがかつて通った教会の中でこのようなもんだいを公に「教え」た教会はひとつもありませんでした。そのために、聖書を史実であると信じていながら、この問題については考えたこともないクリスチャンがほとんどなのではないでしょうか。
(1)原典に近い聖書翻訳
[・・・・・・・・・・ここにヘブライ文字による表記がある・・・・・・・・・・]
ツレアハ トッエェヴ ムイマャシハ トッエ ムーヒろエ ーラバ トーシレベ
地 を〜と 天 を は神 たし造創 にめ初
単女・冠 前・接 双男・冠 前 複・男 単男3完バ 単女・前
といったぐあいです。
(2)近親相姦について