「ヨセフをエジプトに売り渡したのは誰か --- 兄弟たちか、イシュマエル人か、ミディアン人か ---」について読みましたが、結論を急ぎすぎのように思われます。
(1)ヨセフの兄たちがヨセフを売り渡した件
「ミデアン人」と「イシマエル人」については後で考察し、まず「ヨセフの兄たちがヨセフを売り渡した」件について述べます。
第二の矛盾は、ヨセフの兄たちがヨセフを売り渡したという記述(創世記45:4、使徒行伝7:9)と、ヨセフの兄たちは、売ることは考えたけれど、結局実行はしなかった、つまり、ヨセフはミデアン人がイシマエル人に売り、イシマエル人がエジプトに連れていった、という記述(創世記37)との間にある矛盾です。まず、聖書には後者のようなことは書かれておりません。確かに、動詞の主語をそのように選べば可能でありますが、「矛盾」は主語の選び方に問題があるのです。
創世記37:28の原文を直訳すると次のようになります。
そして、ミデヤン人たちの人々の貿易商達が通りかかった。そして、ヨセフを穴から引き、そして上げた。 そして、銀20でイシュマエル人にヨセフを売った。そして、ヨセフをエジプトへ連れていった。日本語や英語ではこのままでは文章になりませんので主語を入れます。英語では普通 they を付けます。しかし、日本語では指示代名詞は避けたいので具体的にしたいのですが、いざ決定しようとすると物語の解釈で相違がでます。
「ヨセフを穴から引き上げた」のは誰か、「銀20でイシュマエル人にヨセフを売った」のは誰か、「ヨセフをエジプトへ連れていった」のは誰かです。
37:28の最初だけを日本語で読むと、主語は「ミデヤン人」のように思われますが、すべてを「ミデヤン人」では理解できません。
まず、「ヨセフを穴から引き上げた」のは、「ヨセフの兄たち」のように思わ れますが、「ミデヤン人」かも知れませんので普通は「彼ら」と訳しています。
次に、「ヨセフを売った」ですが、同じ創世記の45:4で「ヨセフの兄たち」が売ったと言っているわけです。これを、わざわざ「ミデヤン人」が売ったとしているところに「矛盾」が生じています。
使徒行伝7:9の記述は旧約聖書に添ったものです。ヘブル語を一番知っているユダヤ人が「ヨセフの兄たちが」「ヨセフを売った」と理解しているわけです。またストーリーからも合理的な判断です。
「ヨセフをエジプトへ連れていった」のは「イシュマエル人にヨセフを売った」とありますので「新改訳」では「イシュマエル人」としています。なお、「口語訳」ではすべて「彼ら」と訳しています。
「ヨセフの兄たちは、売ることは考えたけれど、結局実行はしなかった、つまり、ヨセフはミデアン人がイシマエル人に売り、」とは聖書に書かれていないように思われます。
なお、共同訳に本当に「彼らのヨセフを穴から引き上げ」とあるなら「彼らの」は「彼らは」の誤植と思われます。
「彼らはヨセフを穴から引き上げ、銀二十シケルでヨセフをイシマエルびとに売った。彼らはヨセフをエジプトへ連れて」がどうして「ヨセフの兄たちは、売ることは考えたけれど、結局実行はしなかった、つまり、ヨセフはミデアン人がイシマエル人に売り、」に一意に決められてしまうのでしょうか?
確かに、新共同訳に改訂されてからはそのように受け取られる可能性のある訳ではありますが、共同訳では問題はありません。
ここに書かれていることは、「ヨセフの兄たちが、ヨセフをイシュマエル人に銀20で売った。イシュマエル人がヨセフをエジプトへ連れて行った。」ということです。
従いまして、「第二の矛盾」は矛盾するように「彼ら」を解釈しているから「矛盾」が生じているだけです。
(2)「ミデヤン人」と「イシュマエル人」の件
第一の矛盾は、直接エジプト人にヨセフを売り渡したのは、ミデアン人であるという記述(創世記37:16)と、そうではなくて、イシマエル人であるという記述(創世記39:1)との間にある矛盾です。「直接エジプト人にヨセフを売り渡したのは、ミデアン人であるという記述(創世記37:16)と、そうではなくて、イシマエル人であるという記述(創世記39:1)」とのことですが、「そうではなくて」は、ご自分の読み込みです。書かれていることは、「直接エジプト人にヨセフを売り渡したのは、ミデアン人であるという記述(創世記37:16)と、イシマエル人であるという記述(創世記39:1)が」あるということです。
ここで「矛盾」と感じるのは、聖書によればミデアン人とイシマエル人はアブラハムの子孫ではありますが、別の部族だということです。しかし、創世記の問題の個所を読むと平然と併記しています。
「異なった二つの伝承を総合したために、このような矛盾が含まれるようになった」という説は何を根拠としているのでしょうか?1行の中に矛盾する伝承を書いた人はよほど几帳面で、ストーリーより伝承された語句を重視したということでしょうか。
さて、士師記8:24に次のような記事があります。
8:24 ついで、ギデオンは彼らに言った。「あなたがたに一つ、お願いしたい。ひとりひとり、自分の分捕り物の耳輪を私に下さい。」