佐倉さんの論述では「『ギルガメシュ叙事詩』の『ウトナピシュティム物語』 の部分がノアの洪水物語に対応する」となっています。では実際にその物語と創 世記とを比較・検討してみましょう。
船の大きさ
ギルガメシュ叙事詩に出てくる大船は「六階あってそれぞれ九つの小部屋が付 いてい」ますが、ノアの箱船は「仕切り室」があり、「三階」建てになっていま す。また大きさも、前者で花笠、幅、高さがすべて120キュビト(53.6メート ル)のそこの平らな船ですが、ノアの箱船は長さが300キュビト(133.5メート ル)、幅50キュビト(22.3メートル)、高さが30キュビト(13.4メートル)で、 長さと幅が6:1という割合は、現代の船舶設計者も用いているほど精巧なもので す。
船を作る期間
ギルガメシュでは「七日」で船を作り上げます。ノアの箱船は期間は明記され ていませんが、7日以上かかっていることは明らかです。120キュビト(53.6メー トル)ほどの船がわずか7日で出来るなど、現実的な話ではありません。
船に積む荷物
「私は……野の動物も、野の獣も、蜜蜂も、残らず船に載せた。」―ギルガ メシュ叙事詩
「『あらゆる肉なるあらゆる生き物のうち、それぞれ二匹ずつを箱船の中へ 携えいれ、それをあなたと共に生き長らえさせるように……そしてあなたは、食 べられるあらゆる食物を自分のために取りなさい。』」―創世記 6:18−21
二つを対比させて分かるように、ノアの箱船の方は動物たちがすべて船に乗っ たわけではありません。
洪水期間
ギルガメシュの方は「六日六晩」しか暴風雨は続きませんが、ノアの洪水は 「四十日四十夜」続きます。―創 7:12。
洪水後に放たれた動物
ギルガメシュでは、まず鳩を飛ばし、次に燕を飛ばし、大烏を放します。しか し、創世記では、まず渡り烏(大烏)を放し、次に三度鳩を放します。ですか ら、放した動物の種類もその順番も異なっています。
宗教上の概念の相違
ジョージ・A・バートン教授は、創世記の記述とバビロンの創造説話の類似点 や相違点と思える箇所を検討し、こう述べています。「もっと重要な違いは両者 の宗教上の概念にある。バビロンの詩は神話的かつ多神教的である。神に関する 概念は決して高尚なものではない。神神は愛憎をあらわにし、企てや陰謀にかか わり、戦い、破壊する。マルドゥクは戦士であり、力を振り絞る熾烈な闘いの末 にはじめて征服する。一方、創世記は最も高尚な一神教を反映している。神は絶 対的な意味で、宇宙のあらゆる要素の主であり、それらは神のごくわずかな言葉 にも従う。神は苦もなくすべてを掌握する。神が語れば、それは成し遂げられ る。大半の学者たちと同じく、仮に二つの物語に関連性があることを認めるとし ても、聖書の記述が霊感によるものであることは、それをバビロンの記述と比べ てみれば一番分かる。我々が今日、創世記の章を読むならば、唯一の神の栄光と 力が今なお我々に啓示され、古代の人々の場合と同様、現代人のうちにも創造者 に対する崇敬の態度が育まれる。」―「考古学と聖書」、1949年、297,298ペー ジ。
結論
以上から、創世記がギルガメシュ叙事詩とは無関係であることが分かります。