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言の葉

(30)


[六代将軍徳川家宣の] 御治世のはじめに、落書が多かった。延宝の時(家綱の時代)にも落書があったが、こんどほどのことはなかった。だから、老中の人々が、「落書が日に日にさかんになることはよろしくない。はっきり禁止すべきである」と言われたのに対して、上様は、「世間の人はこうした手段によって、はばかることなくおもうところを言うのである。だから、こうした落書の中から、余の戒めとすべきところもまた採用すべきこともあろうと思うので、たとえどんなことが書いてあっても、写し取って差し出せと近習の若侍たちには言った。みなもまたそれを集めて見るべきである。これらのことを禁止して、世論の道をふさぐことは、もっともよろしくない」と仰せられた。

--- 新井白石『折りたく柴の木』(桑原武夫訳) ---