佐倉さん、はじめまして。私は今、ある心配事で頭がいっぱいです。佐倉さんのホームページも心配事を解決しようとあちこちネットサーフィンしている中でみつけました。大変興味深い内容ではまってしまいました。非常に個人的ですが、私の心配事の話をしたいと思い、お便りしました。

それは預言についてです。私はクリスチャンでもないですし、聖書もしっかりと読んだことがありません。が、最近話題になった本「聖書の暗号」(原題は『BIBLE CODE』?)の内容にとても衝撃を受けました。この本を読まれましたか?旧約聖書をヘブライ語で表し、あるコンピュータソフトを使って解読すると、過去や未来の出来事のキーワードが浮かび上がってくるそうです。このソフトはイスラエルの学者が作ったそうですが、本を著したのはアメリカ人ジャーナリストです。

この暗号を解読すると、広島・長崎への原爆投下、ラビン首相の暗殺とその暗殺者の名前、ダイアナ元皇太子妃の事故等々が記されているそうです。また、未来に関しては、日本で大地震が起きる事や2回にわたっての核戦争(世界大戦)による人類滅亡が預言されているそうです。

ノストラダムスをはじめ、たくさんの人が預言というものをしていますが、どれも解釈がこじつけだったり「この事柄に関する預言はこれだ。」というふうに事後に解釈を当てはめることが多いように思います。しかしこの「聖書の暗号」では、著者は事件前にラビン首相が暗殺されることに気づいていたということです。その危険を首相に手紙で知らせたが、結局防げなかったのだそうです。

これらの内容については反論を唱えている人もいるらしく、インターネット上にもサイトがあるらしいのですが、多くはアメリカのサイトのようです。私は英語力も乏しいので自分の目で確かめることができないでいます。この本の内容をイカサマと考えている人もいるようです。わたしは信じたくないですしもしこれらの預言が正しいとしたら、なぜこのような預言をわざわざするのか理解できません。

なぜなら読めば読むほど、これらの預言は不可避なものに思えるからです。著者は警告と受け止め、人類が努力すれば預言は回避できると考えているようですが・・・。私はコンピュータのプログラミングの過程で、預言の内容にあてはまるような何らかの操作がされているんではないかと素人考えで推察します。

なんだかズラズラと書き連ねてきましたが、佐倉さんをはじめ、宗教の有無も関係なく、たくさんの方の意見がききたいです。バカバカしいと思われたり、気分を害する方もいらっしゃるかもしれませんね。でも私には他意は無く、ただただ不安と恐怖でいっぱいなのです。夜もよく眠れず鬱病のようです。佐倉さんのページをお借りして大変申し訳ありませんが、私の意見(気持ち)を知っていただき、みなさんからも意見をいただきたいと思います。


(1)「預言者」と「予言者」

聖書には予言のようなものも含まれていないこともありませんが、基本的に、聖書は預言の書(神から預かった言葉)として信仰者に受け入れられてきたものであって、予言の書(未来の言葉を予め語った言葉)としてではありません。預言者は宗教者ですが、予言者は占い師にすぎません。預言者は人類の行動に対して社会批判者としての役目を果たしますが、予言者は世を騒がすセンセーショナリストの役目しか果たしません。しかも、人類歴史に刻まれた無数の不幸な出来事がしめすように、人間には予知能力がないことはあまりにもあきらかなことですから、予言者はペテン師でもあります。


(2)暗号としての聖書

聖書(でなくてもよいのですが)には、それが表向きに書かれていることとは別に、他のメッセージが隠されている、という主張が正当であることが認められるためには、その暗号を解くための鍵(どのように隠されたメッセージを読む取るかという方法)が正当なものであると認められねばなりません。

たとえば、ある日付(x月x日)を暗号化して「10285125」という文字列を造ったとします。表向きはただの数字ですが、この数字の列から隠された日付を読みとる鍵を「偶数位置」だとしますと、2番目4番目6番目8番目の数字を抜き取って、隠れた日付「0815」すなわち「八月十五日」を読みとることができます。そうではなく、鍵は「最初の2桁と最後の2桁」であるとしますと、隠された日付は「1025」すなわち「十月二十五日」ということになります。そうではなく、鍵はもうすこし複雑で、「最初の4桁の日付から1週間後」ということにすると、「十月二十八日から一週間後」ですから、「十一月四日」が隠された日付になります。このように、暗号の鍵を何にするかによって、隠された意味は変わってしまいます。

この簡単な例からも明らかなように、特定の鍵が予め決定されていなければ、「10285125」という単純な文字列からでも、実は、どんな日付でも読みとることが出来ます。同様に、聖書のような膨大な量の文字列からは、どんな好みの文章も読みとることができます。そのために、聖書に隠された意味を見つけたと主張する人は、同時に、彼の使用する鍵が正当なものであることを証明しなければ、まったく彼の主張はナンセンスとなります。

鍵の正当性(神が『聖書の暗号』の著者にこの鍵を与えたという事実)が証明されていない暗号解きがいかに無意味であるかは、『聖書の暗号』と同じような「予言」が、他の本(たとえばメルビルの小説『白鯨』など)からも読みとれることを示すことによって証明することができます。『源氏物語』や夏目漱石の小説などからも、「阪神大震災」の予言を読みとることができるでしょう。


(3)予言のトリック

予言のトリックの常套手段は昔から明らかにされています。

(ア)曖昧な予言をする(あとで、どうにでも解釈できる)
(イ)事件が起きた後、それがすでに予言されていた、と主張する(「古い巻物が見つかった」)
(ウ)いつでも起こりそうなことを予言する(地震や戦争など)
(エ)人々が心配していることを予言する(核戦争など)
(オ)外れたときの言い訳がある(「予言は正しいが解釈が間違っていた」など)
これらのトリックをマスターすれば、だれでも予言者になることができます。「著者は事件前にラビン首相が暗殺されることに気づいていた」というのは、(イ)および(ウ)のトリックを使用したものといえるでしょう。イスラエルの首相はいつでも暗殺の危険にさらされているからです。「日本で大地震が起きる事」という予言も(ウ)のトリックに相当します。日本に地震があるのは当然だからです。

ノストラダムスの予言はとくに(ア)のトリックを使用したものです。ノストラダムスの予言の曖昧さは、それをどのようにでも解釈できる都合のよい予言なので、新興宗教団体が自分たちの信者を増すために好んで利用しているようです。第三次世界大戦や核戦争の予言は(エ)の代表的なものです。このトリックも、新興宗教に頻繁に利用されているようです。(「わたしたちの教団に入って、それを止める使命を果たしましょう!」とか「うちの教団に入会すれば破滅を逃れることのできる選ばれたひとりになれます!」)

聖書の中の予言などはほとんど(イ)のトリックを使用しています。たとえば、聖書のダニエル書のすくなくともその一部は、それが書かれた当時のこと(前二世紀)が、あたかも、数百年前のダニエルという人の予言の言葉であるかのように書かれている「事後に書かれた予言の書」であることを現代の多くの学者が指摘しています。

それでは、なぜ、いかがわしい予言書のたぐいが、あきもせず出版され続けるのでしょうか。それは、ペテン師がなぜペテンをやめないか、という問いに対する答えと同じです。まず第一に、それが儲かるからです。第二に、新興宗教に信者を集めるのに便利だからです。第三に、世を騒がすのは面白いからです。予言書なるものは大体そんなものだ、というのがわたしの意見です。漫画や週刊誌を読み捨てる調子で通勤時間を楽しむ程度の価値はあるかも知れませんが。

『聖書の暗号』の著者は、プロレスリングのレスラーのように、大げさな演技をやって、遊んでいるのだと思います。とくに、彼の本の内容をまじめに受け取っている読者を見て、きっと彼は笑っているに違いありません。