おもしろいHPがあるのを発見しました。よくこれだけ書き溜めたものです。

早速そのうちの一つに最初のコメントをつけてみます。洪水伝説が盗作であるとして、その理由をギルガメシュ物語の成立時代が紀元前21世紀であるあるのに対して聖書の成立年代が高々紀元前6世紀程度であるという理由をあげていましたが、旧約聖書はその性質上物語ではなく歴史の記述であり、記述される歴史上の事実が紀元前21世紀以前に存在しているならば、ギルガメシュ物語がその事実を物語のテーマとして用いたと考えても構わないのです。従って、ギルガメシュ物語を引き合いに出してもそれが聖書が盗作であると断定する証拠としては不十分でしょう。

長谷川寿紀

もちろんこのようなことを絶対的に断定することはできませんが、盗作の可能性がきわめて高いということです。

ノアの洪水の伝説を書き上げた人物は、ただ言い伝えられてきた昔話を書き残しただけのことで、その言い伝えがまさか古代シュメール文明の古典ギルガメッシュ叙事詩の洪水物語に遡ることなどについては何も知らなかったのだろうと思われます。「竹取物語」の原形となったものは古代中国の古典にあるそうですが、わたしたちの祖先がそんなことは露知らず、日本の昔話として親から子へと連綿と語り伝えてきたようなものとも言えます。

聖書の洪水物語が、ギルガメッシュ叙事詩の洪水物語とは独立に、ある歴史的事実をもとにして書かれたものではなく、このギルガメッシュ叙事詩の洪水物語そのものがその原形であった可能性がきわめてたかいと判断できるのは、次の二つの理由によります。

(1)鳩やからすを放って水が引いたかどうかを調べるなどという、きわめて創作性の強い具体的なモチーフがそのまま繰り返されている。

(2)古代シュメール文明の文学は、数千年にわたってメソポタミアを支配したアッカド、アッシリア、バビロニアなどの様々な文明によって、偉大な古典として学び伝えられ、西欧文明にとっての古代ローマやギリシャの古典の役割を果たしており、大きな文化的影響力を持っていた。しかも、シュメール文明の中心地の一つであったウルは、イスラエル人の太祖アブラハムの家族の故郷であり、イスラエル人の祖先がシュメール文明の影響下にあったことを疑うことは困難である。

創世記は二つの部分から成り立っていると考えられます。最初の部分は1章から11章までで、天地創造、失楽園、洪水、バベルの塔、などの神話の寄せ集めです。第二の部分は12章以降で、ここからイスラエルの歴史が語り始められます。このイスラエルの歴史の始まりが、よく知られているように、太祖アブラハムの家族がメソポタミアの故郷ウルからパレスチナへ移住する物語です。

ノアの洪水のあとに続くバベルの塔の物語も、そのウルに遺跡が今でも残っている古代シュメール人の建てたジグラット神殿がモデルにされたと言われています。創世記の著者(たち)がアブラハム以前の世界に遡ろうとしたとき、古代イスラエル人の祖先達が語り伝えてきた物語、すなわちアブラハムの家族がかつて住んでいたウルで伝えられていた伝説を、そうとは知らずに取り上げることになったのはごく自然な成り行きだったと思います。