聖書の間違い

足し算のできないエズラ

佐倉 哲


エズラ記は、ユダヤ人たちがバビロニアから解放されて帰郷した人々の数をそれぞれの族にしたがって記述していますが、その数を足してみると、記述されている総数とはかなり異なっている、というお便りをいただきました。



平田さんより

98年7月2日

お久しぶりです。佐倉さんの健筆ぶりを見てエールを送りたくなりメールをおくります。

かつて聖書を盲信していた平田です。今は批判的に読む癖が出来て違った聖書の読み方をしています。その結果聖書に間違いがあるのではないか、と思われる個所を見つけたのでメールします。その箇所は旧約聖書 エズラ記2章です。この箇所は私が発見した訳ではなく、約200年前に書かれた<理性の時代>原題The Age of Reasonの著者トマス・ペインThomas Paine 1737-1809が書いているものの孫引きです。この本は泰流社から出版されていますので日本語で読む事ができます。 さて 少し長くなりますが引用いたします。

エズラ書第二章で聖書の筆者は、バビロンからエルサレムへ帰還した部族と家族、およびそのそれぞれの正確な人数のリストを示しており、そのようのして帰還した人々についてのこの記載が、その書を執筆する主な目的の一つだったようにおもわれる。ところがこれには、そのくわだての趣旨を台無しにする一つの誤りがあるのである。筆者は自分の記載を、次のようなやり方で始める<第二章三節><パシロの子孫は2172人。>四節<シパテヤの子孫は372人。>そしてこのやり方で彼は全ての家族をとうして進む。64節で彼は総計をおこない、全員はあわせて42、360人だったという。だが、それぞれの内訳を集計する労を取る人は誰でも、29、818しかないことを発見するだろう。ゆえに誤差は12、542である。とすると、何ごとであれ聖書のなかに、どのような正確さがありうるのだろうか?
原注 各家族の内訳 エズラ書第二章より
 節    
 3  2,172
 4    372
 5    775
 6   2,812
 7   1,254
 8     945
 9     760
10    642
11    623
12  1,222
13    666
14  2,056
15    454
16     98
17    323
18    112
19    223
20     95
21    123
22     56
23    128
24     42
25    743
26    621
27    122
28    223
29          52
30        156
31   1,254
32       320
33        725
34    345
35  3,630
36    973
37  1,052
38  1,247
39  1,017
40     74
41    128
42    139        
43  
44  
45  
46  
47  
48    392
60     652

総計 29、818
これらの筆者達は聖書製作者としては充分よくやっているかもしれないが 、なんであれ 真実と正確さが必要であることにたいしてはダメである。161ページ―163ページ
以上長くなりましたが引用しました。さて、私は寡聞にして、この箇所に関して、いかなる調和化がなされているのか知りません。誰かこの点に関して誤りでない、と言う人がいるならば説明してもらいたく思います。

佐倉さんはどう考えますか?では、このへんで失礼します。


作者より平田さんへ

98年7月6日


念のために、わたしも数えてみましたが、ペインの主張するように、エズラ記のいう「総数」とは一致しません。聖書の記述の不正確さがここにもあらわれているようです。しかしながら、それぞれの部族の数は、「イスラエルの男子の数」(2:2)とい書いてあるように、男性だけの数を示しており、「会衆の総数」(2:64)は、男女合わせた数である、というような主張も成り立たないこともありません。わたしがファンダメンタリストでしたら、おそらく、そのようないいわけを考えるでしょう。

わたしは、このことに関しては、さらに、ネヘミヤ記も調べてみました。というのは、ネヘミヤ記七章には、おなじユダヤ人たちの帰郷の記事が繰り返されているからです。すると、この二つの記述の間にはかなり沢山の矛盾(赤色の部分)があることがわかりました。この矛盾には弁解の余地がありません。

 エズラ書第二章      ネヘミヤ記七章
 節     人口     節     人口
----------------------------------------------------------------------------------------------------
 3  2,172     8  2、172     パルオシュの一族
 4    372     9    372     シェファトヤの一族
 5    775    10    652     アラの一族
 6  2,812    11  2、818     パハト・モアブ、すなわちイエシュアとヨアブの一族
 7  1,254    12  1、254     エラムの一族
 8    945    13    845     ザトの一族
 9    760    14    760     ザカイの一族
10    642    15    648     バニ(ビヌイ?)の一族
11    623    16    628     ベバイの一族
12  1,222    17  2、322     アズガドの一族
13    666    18    667     アドニカムの一族
14  2,056    19  2、067     ビグワイの一族
15    454    20    655     アディンの一族
16     98    21     98     アテル、すなわちヒズキヤの一族
17    323    23    324     ベツアイの一族
18    112    24    112     ヨラ(ハリフ?)の一族
19    223    22    328     ハシュムの一族          
20     95    25     95     ギバル(ギブオン?)の一族
21    123                  ベツレヘムの男子
22     56                  ネトファの男子
     (179)   26    188     ベツレヘムとネトファの男子
23    128    27    128     アナトトの男子
24     42    28     42     アズマベトの男子
25    743    29    743     キルヤト・アリムとケフィラとベエロトの男子
26    621    30    621     ラマとゲバの男子
27    122    31    122     ミクマスの男子
28    223    32    123     ベテルとアイの男子
29     52    33     52     ネボの男子
30    156                  マグビシュの一族
31  1,254    34  1、254     もう一人のエラムの一族
32    320    35    320     ハリムの一族
33    725    37    721     ロド、ハディド、オノの男子
34    345                  エリコの男子
35  3,630    38  3、930     セナアの一族
36    973    39    973     祭司 ユダの一族、すなわちイエシュアの家族
37  1,052    40  1、052     イメルの一族
38  1,247    41  1、247     パシュフルの一族
39  1,017    42  1、017     ハリムの一族
40     74    43     74     レビ イエシュアとカドミエル、ビヌイ、ホダウヤの一族
41    128    44    148     アサフの一族
42    139    45    138     門衛
48    392    60    392     神殿の使用人+ソロモンの使用人
60    652    62    642     デラヤ・トビヤ・ネコダの一族
以上の赤色の部分が示すように、二つの記述には明らかに不一致がみられ、一方が正しいとすれば、他方は必ず間違っていることになるために、「聖書にはいかなる誤謬もない」という主張は誤っていることがわかります。聖書が間違っているとすれば、それは神の言葉ではないということにもなります。神は、その定義によると、間違いを犯さない全知全能の神のはずだからです。

おたよりありがとうございました。